私の運転する車の左側前輪にいきなり飛び込んで来たのはなんと二匹の白い猫だった。ドーンとぶつかったかと思ったら一気にUターン。その速さといったら人間の動体視力ではとても追いつかない。二匹の後方、つまり追いかける側の猫が今回の主役である。名前はシロと言う。
そのシロが我社の玄関先にひょっこり現れたのは、その日から遡ることちょうど一年ほど前のうららかな春のことだった。子供を宿していると想像できる、その少し大きめなお腹で物欲しげに見つめる目は、その当時大の猫嫌いであった私でも何か食べさせてあげなくてはと、人間としてごく自然な行為に発展させた。そして少し薄汚れてはいたが、体が白っぽかったので単純にシロと名付けた。
毎日のように来ていたシロがしばらく来なくなったが、久しぶりに見せた姿のそのお腹はへこんでいた。どこかで出産、それとも流産、1ヶ月も経った頃だろうか、シロにお弁当のウインナソーセー ジを与えると、口にくわえてどこかへ運んで行き15分くらいで戻って来た。1本ずつくわえ、何度も何度も往復した。それは今思い出してみても泣けてくるほどけなげで感動的な姿であった。
その後小さな子猫たちを連れてくるまでにそれほど時間を費やすことはなかった。3匹の小さな縞模様の子猫たちはとてもかわいく、時間になると皆でエサをねだりに来る。会社ではもうアイドルだ。
また私は、寒い冬が来る前に、そして皆がこの寒い冬を越せるようにと、会社のベランダ(1階)に猫ハウスを作ることにした。大きめな段ボールを二つ横に重ね、緊結すると共に中央をくりぬき、外断熱のビニールシートで囲った入り口の小さい、二部屋のとても暖かいハウスに仕上がった。中にはふわふわのペット用毛布を敷き詰めた。 買い出しから始めて合計7時間半もかかった苦心の家だ。
なかなか住む気配はなかったが、ある日夜中にそっと中を覗くと、何とシロと目が合ったのだ。苦心して作ったこのハウスにやっと住んでくれたねと、このとき私は歓喜のあまり涙が出てきた。この時の感動は今でも忘れられない。
結局、この冬は4匹皆でこのハウスで過ごすことになった。私は子猫たちを、キー、チョビ、ビビと名付けた。夜間の残業時間になると、私が仕事で座っているイスの後ろの小さな隙間にシロがもぐり込んできて寝てしまう。
シロにとってはこんな狭いところこそ一番安心して眠る事のできる場所だったのかも知れない。私もシロと同様にお尻の温もりがとても幸せだった。
そんなシロを私はいつの間にかこよなく愛してしまっていた。
@シロと私:第2編へ続く