建物を設計するとき、地震に対して安全に設計することを「耐震設計」といい、「耐震設計」のもとになる基準を「耐震基準」といいます。
国では大地震がおきて建物が被害を受けると、どうして被害を受けたかを研究して同じ被害を受けないように新しい考え方を盛り込み、「耐震基準」をきびしくするなど、法律や基準を改正してきました。
今使われている耐震基準は「新耐震設計基準」と呼ばれ、阪神・淡路大震災においても、この基準によって設計された建物は被害が少なかったといわれています。
耐震診断というのは昭和56年(1981年)5月以前に建てられた建物が、この「新耐震設計基準」とくらべて、どこが弱いか、どこを補強すればよいかを調べるものです。
◎大地震に備えて耐震診断を受けましょう
阪神・淡路大震災では木造ばかりでなく、堅固な建物といわれている鉄筋コンクリート造や鉄骨造も大きな被害を受けました。
「災害に強い安全なまちづくり」のためには、今お持ちになっている建物が、安全であるかどうかを知ることが大切です。
今回のような大地震で、被害を受けた建物の復旧に要した費用と、あらかじめ耐震改修を行ったと仮定したときの費用とを比べてみますと、あらかじめ耐震改修を行った費用の方が、はるかに少なくてすむといわれています。
このように耐震診断は、改修や補強の目安となるものであり、「転ばぬ先の杖」なのです。
耐震診断調査の結果、耐震性に問題があると思われる建築物は、適切な補強工事を行う必要があります。これを耐震改修と言います。
◎耐震改修
補強や改修工事を行う場合、専門家(建築士)が該当建築物の構造上、地震の揺れに対して弱い部分の補強計画を立案し、補強工事のための(設計図書)を作成します。
専門家に耐震改修を依頼する場合、耐震診断とは別途に費用が発生します。
災害が起きる前に地震に強い建物に改修することが大切です。
◎建築物の耐震改修の促進に関する法律の目的
この法律は、地震による建築物の倒壊等の被害から国民の生命、身体及び財産を保護するため、建築物の耐震改修促進のための措置をすることにより、建築物の地震に対する安全性の向上を図り、公共の福祉の確保に資することを目的としています。
◎特定建築物の所有者の努力
オフィスビル、マンション、病院、劇場、百貨店など、不特定多数の利用がある建築物(特定建築物)(RC造・S造等で3階以上かつ延面積1,000m2以上の建築物)の所有者は、現行の耐震基準に適合するように建築物の耐震診断、耐震改修を行うよう努めることが求められています。
◎耐震改修計画の認定
建築物の耐震診断に基づき、現行の耐震基準が求める耐震性能の水準を満たすように耐震改修を行おうとする建築物の所有者は、耐震改修計画について所管行政庁の認定を受けることが出来ます。
認定に際しては、建物所在地の所管行政庁へお問い合せ下さい。法令上の制限緩和措置等を受けられる場合があります。
◎次のような建物は、ぜひ耐震改修を実施しましょう
多数の人が利用する建築物・階数が3以上で、かつ延面積1,000m2以上の建築物
◎耐震診断・耐震改修にともなう補助金制度について
耐震診断調査や耐震改修工事(補強工事)を実施した場合、地域により建物所在地の地元自治体の設置した要綱等に基づいて調査あるいは工事費用の一部を補助する制度があります。補助の金額・対象となる物件は地域によって異なりますので、詳細は地元行政庁にお問い合せ下さい。
◎住宅の耐震改修による減税制度
ある一定の耐震改修工事(補強工事)を実施した場合、建物の所有者に、所得税・固定資産税等の税控除・減額等の特例措置があります。詳細は地元行政庁にお問い合せ下さい。
2021.05.05 木造建築物耐震診断評価委員会 委員長 辻川 誠
1.木造軸組工法住宅耐震診断の傾向
1.1立川支部木造建築物耐震評価委員会に於ける年度別の木造住宅耐震診断件数
図1は2013年(平成25年)から2017年(平成29年までの年度別の耐震診断件数ついて示しており、非住宅については対象外としています。平成25年4月から平成30年3月までの合計件数は103件です。
熊本地震があった平成28年には診断件数がやや増加しています。これまでにも、中越地震や東日本大震災後に診断件数が増加しています。
1.2 地区別の件数 (以降H25~H29の集計)
1.3 新耐震前後の比率
診断物件のほとんどは新耐震以前(昭和56年6月以前)に建てられたものです。集計は新耐震以前のものを対象としています。因みに、新耐震以降の建物は2件でした。
1.4 建築年代
診断物件の建築年次をグラフ化すると図3の様になります。昭和46年~昭和56年に建築されたものが多くなっています。
1-5 延べ床面積 (以降、木3と新耐震を除く)
図4は延べ床面積を示します。
延べ床面積としては100㎡前後(75~125㎡)のものが全体の61.2%となっています。50㎡以下は0件で、200㎡を越えるものが1件ありました。
1.6 図面の有無
図面は103件中、72件で平面図等の何らかの図面が存在していましたが、現況との相違があるケースが47件あります。確認図書は46件で存在していました。検査済証ありが8件、防音工事の際の図面ありが4件でした。そして、103件中、64件で増築が行われていました。
1.7 階数と用途
階数は2階建てが95件、平屋建てが8件でありました。用途は専用住宅が99件、共同住宅が2件、店舗併用住宅が2件です。
1.8 屋根の重さ
図5は屋根の重さです。屋根の重さは軽い屋根(スレート葺き・鋼板葺き)33%と重い屋根(瓦葺き)67%程度となっています。非常に重い屋根(葺き土ありの瓦葺き)はありませんでした。
1.9 外壁の種類
図6は外壁の種類です。外壁はラスモルタル塗りが全体の約73%に上り多数を占めています。板張り壁(羽目板張り・下見板張り)は昭和40年代前半までの建物に多いといえます。また壁の下地として土塗り壁の建物が12件ありましたが、昭和39年以前に建てられた建物となります。その他は角波鉄板、なまこ板などです。
1.10 基礎の種類
図7は基礎の種類を示しています。鉄筋探査等による調査の結果、約93%が無筋コンクリートです。そして図8に示すように、無筋コンクリートの内の79%で何らかのひび割れが生じてました。古い建物には玉石基礎も存在します。
図8は無筋コンクリート基礎の劣化状況を示しています。ひび割れありが35.4%、軽微なひび割れありは44.8%となっており、全体の8割で基礎のひび割れによる劣化が生じています。
図9は布基礎の形状の種類を示しています。全体の78%がI型基礎となっています。また、逆T型基礎18件の内、13件が昭和50年代のものとなっています。
1.11 劣化度
図10は一般診断法における劣化低減係数を示しています。劣化低減係数は0.7が最も多く、全体の44%程度になっています。
1.12 現況建物の上部構造評点
図11に新耐震前の建物についての診断結果(上部構造評点)を示します。全体の94.2%が上部構造評点0.5未満となっています。また、全ての建物で上部構造評点0.7未満(倒壊の可能性が高い)となりました。
2 木造住宅の耐震改修へ向けて
【昭和56年6月以前に建てられた建物】
図11に示すように、ほぼ全ての建物で必要とされる耐震性能を満足していません。早急に耐震補強を実施することが重要です。
【昭和56年6月~平成12年5月に建てられた建物】
平成12年(2000年)6月に建築基準法の木造建築物に関する耐震規定が大幅に改定されました。主に以下の①~③が新たに定められました。
①耐力壁の配置バランスについての規定
②柱に取り付ける接合金物の規定
③筋かいの端部接合金物の規定
昭和56年6月~平成12年5月に建てられた建物は耐震診断を実施すると必要な耐震性能を満足しないことが少なくありません。これらの建物はリフォームなどの機会に耐震診断を実施して、リフォームに合わせて耐震補強も実施したいものです。